100年を迎えて
柏井:ついに100年を迎えましたね。私はこの病院に来るようになってから34年経つから、この100年の歴史の3分の1は見てきたことになるね。
工藤:そんなになりますか。現在、勤務している医師の中で、一番勤続年数が長いのではないですか?
柏井:きっとそうなるでしょう。色々あったけれど一番よく印象に残っていることは、患者さんとのレクリエーションの思い出かな。昔はキャンプだ、B.B.Qだ、演芸会だと色々やったものです。病院が患者さんの生活の場だったから、その生活に潤いを与えることがとても大事な病院の役目だったんだよね。
工藤:そうでしたね。昭和から平成の初期は精神科病院ではそれが当たり前でしたね。私もよく参加し、キャンプ場でカレー作りを毎回やっていましたね。じゃがいもの皮むき担当でしたが(笑)
柏井:山本病院開院(大正2年)から伝わる“山本100年カレー”だね。
あれは美味いね!この100周年限定で、レトルト版で復刻されるらしいね。
工藤:それは楽しみですね。じゃがいもは私がむくのかな(笑)
山本病院の現在と未来
柏井:最近、精神科病院を取り巻く環境は、世のデフレ状況とリンクして停滞しているように感じていたが、ここへきて少し動きが出てきたように思える。入院から外来へ、外来から地域へという方向性で山本病院は動いてきたが、入院の在り様の変化に対応しきれていない気がする。長期入院患者の減少、短期入院患者増大の中で、山本病院はどのように軌道修正するか考えないといけないよね。
工藤:私もそう思います。地域で支えられ、生活できるようになった患者さんがたくさんいる。今まで入院患者の多数を占めていた統合失調症の方が長期入院することがなくなり、ベッドに余裕が出てきた。その余力を使って様々な患者さんに丁寧に対応していかなければならないとは感じています。
柏井:そうだね。そのために病院の心構えを見直すことが必要かな。山本病院の原点は、地域で困っている人に貢献すること。司法でも行政でも対応できないケースに関わり、人々が困らなくていいような戦略的治療が可能になればいい。これからはそういう地域からのニーズが高まり、山本病院の方向性もそれに合わせた形になる。
工藤:今、認知症の患者さんを介護保険の施設なり、高齢者向け住宅なり、そういったサービスが地域で支えている。入院という形で病院が受け入れることが非常に少なくなってきていますよね。そこで認知症で困っているところはどこかと考えると、それは他でもない病院なのです。一般科の病院では、身体の疾患と認知症の両方を患っている患者さんには対応できないのです。そういうニーズに山本病院は応えることが重要です。そういった他の医療機関と連携するためにも、内科の医師を当院が雇用する必要があります。
柏井:全くその通りだね。そういう意味でこの春から内科の医師が常勤で勤務してくれることになったことは素晴らしい。高次脳機能障害や発達障害といった部分も積極的に取り組み、
様々な患者さんに対応するためのハード面見直し(個室の確保など)や人員構成の見直しが必要だ。まずは地域のニーズを正確に把握し、新しい戦略を立てたい。山本病院は今、大きな転換点を迎えていて、パラダイムシフトが始まっている。その渦中で100周年を迎えることはもちろん素晴らしいが、ここを次への飛躍に向けて、しっかり準備し、確固たる方向性を定めるきっかけとしたいものだ。